ビフォア・サンライズ + ビフォア・サンセット[PrimeVideo]
リチャード・リンクレイター監督、イーサン・ホーク、ジュリー・デルピー主演の人気シリーズで既に3作品が制作されています。
1作目「〜サンライズ」の9年後に公開された「〜サンセット」では役の中の人物も同じ年月を重ねてるっていう珍しい設定の映画です。(続編の「〜ミッドナイト」ではさらに9年後)
特徴的なのは、ほとんどが主人公二人の会話で構成されているところで、その会話一つ一つがいちいち面白い。二人の後ろを流れていくウィーンやパリやギリシャで出会う人たちや街並みは、本当に風景というかそういう作りになってるんですよね。そういう意味で一種の観光映画としても観ても面白いなと思ってるんですが、やっぱり夜のウィーンの街を一緒に徘徊してる1作目は微笑ましいですよね。
ただ最初に出会った電車の中でお互いがペーパーバックの本を読んでて、それをきっかけに声をかけるんだけどセリーヌはバタイユ、ジェシーはクラウス・キンスキーの自伝を読んでるのはちょっとやりすぎというか 笑
「〜サンセット」でジェシーがサイン会をしていたパリの本屋さん(シェイクスピア・アンド・カンパニー書店)は、1920年代当時のパリの文学者のサロンな様な場所だったそうで、ジョイスの「ユリシーズ」を最初に出版しているみたいです。
以前見た時は気付かなかったけど「〜サンライズ」は音楽がフレッド・フリスなんですね。
シリーズを通して内向気質で理想主義者なジェシー(イーサン・ホーク)が基本的にあまり変わらないというか、少しずつふてぶてしくなっていく感じがとても気に入っています 笑
インセプション [Netflix]
公開時に観て以来、二度目の視聴。
記憶モノSFって好きなんですよね。例えばP.K.ディックの作品(例えばブレードランナー、トータルリコール)に出てくる様な経験していない記憶をあらかじめ植えつけられた主人公が現実との間で葛藤するみたいな。そういうのは映画ファンには馴染みの深い、古典的なテーマだと思います。
でもこの映画が興味深いのはその記憶そのものを上書きするのではなくて、特定の人物が想定通りの意思決定を促す様なアイデアを「夢の中で植え付ける」ところなんですよね。
夢を扱うスペシャリスト達(トム・ハーディ、ジョセフ・ゴードン=レヴィット、キリアン・マーフィーらノーラン組のキャストが出ているのも嬉しい。)が深層心理の中に飛び込んでいって、夢か現実かを撹乱しながら、さらに夢の中で夢を見て...という具合にどんどん下の階層にダイブしていく。
物語が進むに連れ、主人公のコブの過去のトラウマがこのミッションにおいて大きな壁になってくるところなんかは作劇としてすごく良くできてるなと思いました。
改めて見直してみるとコブのかかえた葛藤はタルコフスキーの「惑星ソラリス」とよく似た設定なんですね ^^
愛の悪魔 / フランシス・ベイコンの歪んだ肖像 [Netflix]
現代絵画について何か語ることって難いですよね。
そう感じるのはたぶん私は絵を見る目が全然ないからだと思うんです。
ものすごく好きな絵のことをずっと考えていたりするほど入れ込んだ経験もないし、歴史的背景や価値を担保している文脈や批評家の解釈を聞いても、一般教養止まり。
「すごい」、「かっこいい」と思えないのはけっきょくセンスの問題なんだと思うけど、きっかけがあるなら好きになってみたいとも思ってるんです。
フランシス・ベーコンの絵画についてもそうで、一次情報ではなく、リンチの映画や、ギーガーのエイリアンの造形で影響を受けているとかそんなレベルの認識でした。
この「愛の悪魔 / フランシス・ベイコンの歪んだ肖像」は、50代からの数年間、同棲していた30歳の恋人・ジョージ・ダイアーとの生活を通して、ベーコンがいかに倒錯的な人物であったかを窺い知れる内容になっています。
ベーコンはダブリンの裕福な家庭に産まれたのですが、若い頃から女装趣味があったため、競走馬の調教師であったマッチョな父親からはすぐに勘当。16歳で各地を転々としながら男娼の様な事しながら生活していたのだそうです。
この映画で描かれるベーコンはほんとに嫌なやつで、どういう意図があってなのか、自分が出入りしているインテリが集まるサロンにジョージを連れていったりするんですよね。
これまで接点がなかった種類の人達と交流する中で、ジョージは自身の教養の無さを恥じたり明らかに悩んで、フランシスに打ち明けたりしているのに、四六時中嫌味を言い続けてる。
とはいえ、彼は絵を描くインスピレーションを与えてくれる存在ではあったようで、遊ぶお金だけ渡してただただ囲ってるっていうスタンスなんですよね。
すぐにそんな関係は破綻してジョージは薬物の過剰摂取で無くなるのですが、その死すらもベイコンは作品化してしまう。
倒錯ではあるけども愛というにはどうなのかな。
サブリミナルを使った演出や坂本龍一による音楽などは気が利いてるし、それなりに楽しめるんだけど、ベイコンって僕にはよく分からないなという思いを新たにしました。
ゴーイング・クリア: サイエントロジーと信仰という監禁 [Netflix]
サイエントロジーという団体についてぼんやりした知識しかなかったので、なかなかインパクトのある内容でした。
もともとパルプ・マガジンでSFや冒険小説を書いていた創始者L・ロン・ハバートは1950年に発表した「ダイアネティックス」という著作の中で展開していた世界観を元にサイエントロジーの教義を作り上げたのだそう。
数千万円のお布施と修行を積んだ「上級信者」にしか明かされない(!)というジヌー(Xenu)にまつわるトンデモ神話もこの頃にできたようですね。
(ハバートのSF作品についてはアイザック・アシモフをはじめとする論者から科学的な妥当性の面で批判されているようですが、懇意にしていた編集者の力で発表し続けられていたようです。※1)
このドキュメンタリーの中でも、ハバート自身が、サイエントロジーによる宗教活動を「ビジネス」と明言しているのですが、後継者である今の教祖はさらに露骨です。。
観ていて印象的だったのは、元信者として証言している人が(ちょっと変わった人ではあれ)基本的に善良そうに見える人ばかりだったこと。
入った当初はジヌーの教義とか教団の全貌は明かされない→いきなり告白を強いられる→抜けようとすると告白によって得た個人情報で脅迫されたり、別の信者を使って嫌がらせをされる、という悪夢のようなループによって、抜けられなくなってると。
最初にジヌー云々の話を聞かされてたらバカバカしくて入らなかったという元信者もいましたが、そりゃそうでしょうね(笑)
トム・クルーズが信者に向かって講演している映像を見てると、彼の教団における貢献度の高さと、教団側からも広告塔として最重要視されていることが伺えます。
そういえば彼はポール・トーマス・アンダーソン監督の「マグノリア」で宗教伝道師の役を演じていましたが、それ分かっててやってたのかな…とか気になります。
もちろん役者としてのトム・クルーズは大ファンなのでそれはそれで見続けますけどね。
今のアメリカを理解する上で一つの視点を与えてくれるドキュメンタリーだと思います。
マン・オン・ワイヤー[U-NEXT]
1974年、フランスの大道芸人フィリップ・プティは、(当時)世界一高いビルだったNYワールド・トレード・センター間のツインタワーの綱渡りを敢行しました。
このパフォーマンスは「史上、もっとも美しい犯罪」と賞賛されたそうです。
この映画の監督であるジェームズ・マーシュが「事件」から30年後に彼のことを取材しようとプティの元を訪ね、「計画過程の記録映像」を提供されたことがこの映画の発端になってる様です。
まだ20代前半?ぐらいのチームメンバーたちがアジトで作戦を練ってる感じはすごく微笑ましい。計画から実行まで結構な予算がかかっているかと思うんですが、それがどういうところからきているのかははっきりと示されてないですね。(パートナーがプティは裕福な出自だとコメントしていたりもするのでそういうところからきているのでしょうか、それともパトロンがいたのかな。)
実際に綱渡をしているシーンはもちろんいいんですが、サポートする仲間たちが「プティが夢に描いた風景を観てみたい」「でも共犯どころか下手すると自殺幇助になってしまう」とか、計画当時の葛藤を振り返るのが微笑ましい。
僕も目の前にプティみたいな前人未到の偉業にチャレンジしようとしている人がいたとしたら手伝っちゃうかもですね(笑)
1974年のパフォーマンスで一躍スターになったプティは、今でも路上での大道芸人を続けているようです。
このTEDのスピーチも映画本編と同じくらい素晴らしいので是非見て見てください。
Netflixでは公開終了になっていますが、U-NEXTで見られるようですね。
バーデン [Netflix]
70年代初頭から活動しているアメリカ、ボストン生まれの現代アーティストの生涯を記録したドキュメンタリーです。
このクリス・バーデン という人、現代アートやパフォーミングアートに詳しい人の間では有名人なのだそうで、私もその過激な活動について軽く聞き齧ったことがありました。
特に有名なのが活動初期に当たる5年ほどの間に行なった、「自身の体を相当に酷使するパフォーマンス」(どういうものかは映画を観ていただくか、ググってもらえるとすぐに出てくると思います)で映像で観ると生々しい、(シャレにならないjackassみたいな...)というか普通にヒドいです。
初期ハードコアパンクに通じるような衝動だけで振りきってしまうような表現ですね。
興味深かったのは、彼の生い立ちなどを紹介するくだり(スイスやヨーロッパを転々として育ち、父親がMITの教員をしていたり最高水準の教育を受けている)や、パフォーマンス活動を引退し、美術学校の教員を経て、とんでもないど田舎にある自分の工房で現代彫刻を制作しているところです。
バーデンさんは一貫して作品について意味を語るということを一切しなくて、観ていると、彼は何でこういうことをやってるのかってことがよくわからなくなってくる。でも表現することについてはすごくイノセントな感じというか、やんちゃな子供がそのままおじいちゃんになって秘密基地でデカいおもちゃを作ってるというか。。
でも彼は説明は全くしないけど、鑑賞者に強く訴えかけるようなインパクトを提示するスタンスは彼の中で初期のパフォーマンスの頃からずっと一貫しているんだな、と思います。
晩年になってからはパブリックアートや公立の美術館などで彫刻を発表する機会が増えたようで、個人的にその中のいくつかの作品がすごくいいなと思いました。
この「Urban Light」はLos Angeles County Museum of Artの前に設置されている作品ですが、いまではカップルの間で記念撮影する様なスポットになっているそう。
ロスに行く機会があればの中を歩いてみたいです。
現代アメリカを鋭く切り取った、いいドキュメンタリーだと思いました。
複製された男 [PrimeVideo]
ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の2013年作。
「メッセージ」、「ブレードランナー2049」からこの監督の作品を見はじめたクチですが静謐で不穏なムードは個人的にとても好みです。
幻想と現実の話の区別が難しく難解な部分もありますが、「ファイトクラブ」とか「ロストハイウェイ」なんかがお好きな方はおそらく気に入る内容ではないでしょうか。
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